ブックタイトル2015鹿児島県臨床外科27巻
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2015鹿児島県臨床外科27巻
〔鹿臨外会誌27巻〕3.18Ⅲ下部消化管-29-入院後は絶飲食とし、抗生剤(DRPM 0.5g×3)開始。CTにて直腸に著明な便塊認めていたため摘便施行し、鶏卵大の硬便と粘土状便塊6‐7個、多量のガス排泄を認めた。その後も発熱、理学所見悪化無く経過した。2病日にフォローCTを撮影すると腹腔内遊離ガスは消失していた(図2)。5病日に流動食より食事再開するも理学所見・採血結果等に異常認めず、原因検索のために施行した上部・下部消化管カメラにても穿孔を示唆する病変を認めなかった。経過良好にて20病日に自宅退院となり、その後現在まで再発を認めていない。図2【考察】特発性気腹症はまれな病態ではあるが、2000年から2014年までに本邦で28例の症例報告がある(医中誌にて「特発性気腹症」で検索。会議録、新生児を除く)。症例のうち60歳以上が68%を占め、明らかな男女差は認めなかった。消化管穿孔を疑い手術を施行したケースは54%であり、腹痛や腹膜刺激症状が乏しいケースでは厳重な観察のもと、保存的加療で経過を見るケースが多かった。特発性気腹症は、消化管穿孔以外の原因が考えられるケース(Nonsurgicalpneumoperitoneum)と、理学所見無く原因の推定が不可能な、狭義の特発性気腹症(Idiopathic pneumoperitoneum)に分けられるが、高齢者は狭義の特発性気腹症に分類されるケースが多かった(70才未満38%、70才以上87%)。本症例も狭義の特発性気腹症に分類されるケースであった。明らかな消化管穿孔や腹膜刺激症状を伴わず消化管由来の遊離ガスが出現する機序については、潰瘍による消化管変形で内圧上昇を招き、脆弱化した粘膜部分からガスが流出する可能性や1)、穿孔周囲組織が弁の機能を持つことでガス流出後症状の進行が止まる機序2)、免疫抑制剤による腸管パイエル板のリンパ球が減少することで粘膜の脆弱化が起こる3)など、検討・報告がなされている。高齢者は症状や採血データが敏感に反応しにくいことを考えると、本症例も含め狭義の特発性気腹症と診断されたケースも、原因が解明される前に軽微な腸管の異常が治癒している可能性は考えられる。本症例は、加齢及び腸炎による腸管の脆弱さに加え、著明な便塊貯留による腸管内圧上昇という要因があった。穿孔がピンホール状であれば腸内容の流出はなく、ガスのみ腹腔内に漏出するとの報告もあり4)、本症例も同様な機序が考えられ得るが、明確な機序の解明は困難であった。腹腔内遊離ガス像は消化管穿孔を疑う所見であるが、稀に外科的治療を必要としない本例のような症例がある。このことを念頭に慎重に治療方針を検討することで、場合によっては過大な侵襲を避けうると考えられた。【文献】1)柴田直美、榮波克也、垂石正樹他:消化管穿孔をともなわない気腹症の1例.日消誌2000;97:914-919-29-