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概要

2015鹿児島県臨床外科27巻

-12-Ⅱ上部消化管〔鹿臨外会誌27巻〕3.18簇巣を認め、これも化学療法により消失した転移巣と考えられた。切除胃に残存した腫瘍に対するHER2免疫組織化学染色では、腫瘍細胞の多くの細胞質に弱ないし中程度の陽性所見を認めるものの、細胞膜の陽性所見はほとんど認められなかった(図6b)。術後経過:術後経過は良好で、術後2日目に食事を開始し、術後4日目にドレーンを抜去し、術後12日目に自宅退院となった。現在術後8ヶ月経過し、無再発生存中である。考察TOGA試験の結果により、HER2陽性胃癌に対するXP-Trastuzumab療法の有用性が確立されたが、それでもHER2発現high群にてOSが16.0ヶ月と、HER2陽性であってもなお遠隔転移を伴った胃癌の予後は不良である1)。本症例では、化学療法単独でCRは得られなかったが、外科的切除と組み合わせることでCRを得ることができた。Trasutuzumabをはじめとする分子標的薬は、その薬理作用から標的となる分子が高発現している場合には高い効果を得られる反面、標的分子の発現がない場合には効果が得られない。これはToGA試験のサブグループ解析1)においても、Trastuzumab併用群のうち、HER2発現high群のOSが16.0ヶ月、HER2発現low群のOSが11.8ヶ月とHER2発現high群のOSが有意に延長していることからも示されている。進行固形癌においては、腫瘍細胞の形質が均一であることは少なく、浸潤、転移の過程においてその形質が変化することがあることが知られている。われわれの食道癌切除標本による検討2)でも、発癌の過程で重要な役割を担うと思われる分子の発現が、より深くへ浸潤し、転移を起こす過程で減弱することを報告しており、これも癌組織内において腫瘍細胞の形質が均一でないことを示している。本症例においても、治療前の小さな生検標本の免疫組織化学染色において既にHER2高発現の細胞集団と発現を認めない細胞集団が認められており、切除胃の残存腫瘍のHER2発現は減弱していることが確認された。これらのことから、本症例においては、原発巣、転移巣ともにTrastuzumabにより、HER2高発現の細胞集団が消滅し、併用したXP療法によっても死滅しなかった癌細胞があったものの、肝転移巣においては、追加したCPT-11単独療法によってCRが得られたものと考えられた。原発巣においてはそれでもなお死滅しなかった癌細胞が残存していることが切除標本の病理により示されている。本症例においては、肝転移巣においてCPT-11の追加が結果的に奏功をもたらしたと考えられ、それでもなお生存した腫瘍細胞が原発巣内にとどまっていたため、胃切除によりCRを得ることができたと考えられる。しかし、他の症例においてはまた別の薬剤の追加が必要である可能性も考えられるほか、転移巣にも生存腫瘍細胞が残存する可能性もあると思われる。Trastuzumabは胃癌の化学療法において個別化医療の扉を開いたといえるが、今後、癌組織のheterogenityをも含んだ個別化医療の発展が期待される。文献1.Bang YJ, Van Cutsem E, FeyereislovaA, et al: Trastuzumab in combinationwith chemotherapy versus chemotherapy-12-