桜島爆発の日 大正3年の記憶 立ち読み

桜島爆発の日 大正3年の記憶 立ち読み page 16/18

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概要:
桜島爆発の日

と言いながら途方にくれてしまったのです。ところがその時、左側のナメリの鼻に市兵衛船が姿をぽっかりと現したそうです。船は全速力で、市兵衛や熊助など三十数人が待っている燃崎の兄ケ デイシ弟岩に向かっており、人々は大声で助けを求めました。この岬は水深が深く、船は岸から手の届くような近い所を航行してゆきます。三十数人の避難民の誰もが、これで助かったと思ったに違いないです。が、次の瞬間、人々は地獄の渕へ突き落とされたような衝撃を受けたということです。それは、船が避難民には見向きもせず、そのまま目の前を走り過ぎようとしているからでした。そこには船の持主の市兵衛やその弟の熊助もいるのです。船頭の熊八がトモ櫓を握っている顔が目の前にあり、市兵衛は悲痛な声で 「おい、熊八、お前は、俺を乗せないつもりか」と叫びました。人々も声を限りに助けを求めましたが、船頭の熊八はそれでも無表情だったそうです。桜島の爆発の恐ろしさに、数十分の間に心が変わってしまったのでしょう。次の瞬間岬の岩から五、六人の男が海に飛び込みました。海に飛び込めば乗せてくれると思ったからです。 しかし船の上からは、船の床板や、す、の、板、(船底に敷く板)を次々に流しただけで、そのまま沖小島に立ち寄り、鹿児島の方へ逃げて行ってしまったそうです。燃崎にいた若い人達は、先程の船が流していったす、の、板を取るため、先を争って海に飛び込みました。こ42