桜島爆発の日 大正3年の記憶 立ち読み

桜島爆発の日 大正3年の記憶 立ち読み page 11/18

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概要:
桜島爆発の日

て逃げることにしました。三隻の大型船は前後して持木浜を漕ぎ出しました。どの船も舷側から海面に手が届くほど人を積み込んでいました。私は野元新八船の船首の櫓を漕いでいましたが、どの船も四丁櫓で海は油を流したように静かでした。しかしそのわりには船は速力が遅く感ぜられました。二十間(約三十六メートル)から三十間(約五十四メートル)沖へ漕ぎ出してみると、海水が粘カマ土ツチ色に濁り、小さな軽石が気泡を立てながらいっぱい浮かんできました。船頭の新八兄は私の義兄ですが、この異変を見て 「この軽石と泡はどうしたものか」と叫びながら沖小島への船を急がせました。持木から沖小島まで約二十五分ぐらいだったと思います。 沖小島が近づくと、私は船首で錨をおろし、船は後進の形で浜に接岸しました。乗客のうち元気なものは皆飛び降りました。その時、市兵衛船は二回目を運ぶために持木港に向かって出発して行きました。私共の船も、もう一回持木港に行くつもりでした。私は錨綱を結ぼうとしてなに気なく桜島を見たその瞬間、赤水の上、引ノ平の権現様付近から「ぽっ」と黒煙が噴きあがりました。私は思わず 「あぁー。あそこが噴火した」と叫びました。みんなが一斉に悲鳴をあげました。呆然としていた私に、新八兄が「八郎  37